第21話 C,Gの音 98 8/1 更新
有声音と無声音
まず[C]について。この文字からは二種類の音が生まれます。カタカナ表記では極めて不完全,ほとんどの場合害を及ぼすことを承知で書き表しまと,つまり,ソフトに「スー」のように聞こえる音ととハードに「クッ」と聞こえる音です。前者は[S]の音とも呼ばれていますので第14話[S]の音をご参照下さい。ここではハードな方を扱います。

この音は喉の奥の方から作り出されます。まず日本語との比較で考えましょう。喉に意識を集中させながら柔らかく「くー」「くー」「くー」と伸ばしてみて下さい。続いてつまったように強く「クッ」「クッ」といってみて下さい。感じる衝撃の違いがお分かりになりますか?前者の場合にももちろん引っかかるような感触がありますが,後者を発音するときの方がより尖がっています。「クッ」と発音するときのより大きい,ひっかかるような感触,これだけをうまく抽出すれば[C]の音は完成するのです。練習法としては,あまり美しくなくて申し訳ないのですけど,エヘン虫,つまり喉に軽く痰がからんだ感じがあるとき,それを追っ払おうとしてわざとせき込みますが,そんな乾いた咳の音をイメージして頂くと不思議なくらい上手に発音できます。

さて,強く「クッ」「クッ」と発しながら,親指と人差し指でつまむように,軽く声帯を押さえてみて下さい。[C]は無声音なので,正しく発音されるとまったく声帯は震えません。もし振動が指先に伝わってきたらそれは正しい音とはいえません,不合格です。母音の[U]が混ざっている証拠となります。

いかがですか?ちょっと難しく説明しすぎたでしょうか。実はこの[C],日本語に似ているのでかえって落とし穴もありますが,結構簡単に出せてしまう音の一つなのです。

それでは,[G]の音を考えてみましょう。これにもソフトとハードの2種類があります。そしてそれらはどちらの発音方法も一点を除き[C]とまったく同じになります。ではその一点とは,[G]が有声音であるというところです。有声音と無声音の違いは,ご承知のことと思いますが,例えば冬の水仕事の後,指がかじかんでしまい暖めようとして「はー」と息を吹きかけることがありますが,その時の音は[H]の音といえます。試しにどうぞ。声帯を押さえても振えは感じませんね。これが無声音です。では,ただ今マイクのテスト中「あー」といってみて下さい。今度はビリビリ震えますね。これは[A]音と言えそうです。有声音です。[H]と[A]が一緒になると「はー」と民謡のさびとなるわけです。これは無声音と有声音で出来た音といえます。「かー」も「ぱー」もその仲間です。ちなみに「まー」は[M]と[A]。有声音と有声音の組み合わせグループに属します。

この,[H]と[A]は表裏一体。無声音か有声音かという違いがあるだけで発音方法はまったく同じなのです。片方の技術をマスターすると応用できますね。喉を震わせるという技術は日本語の中にもちゃんと取り込まれているので,どうぞご安心を。

ところが,もう少し深く吟味しますと,発音方法がまったく同じとは言い切れない部分が,実は隠れているのです。それは息のパワーです。無声音の場合は声帯を震わさないで出せる音ですから,肺からでた息のパワーほぼ100%音として我々の耳に届きます。ところが有声音の場合は声帯を震わせてやっと音として聞こえてくるわけです。その過程でかなりのエネルギーが消費されるのです。つまり無声音にくらべて何倍もの息のパワーが要る,ということを肝に銘じていただきたいのです。この技術が身につかなければカタカナイングリッシュを抜け出すことは出来ませんん。では,息のパワーをつけるにはどうすれば良いか。一つイメージしやすい練習法があります。無理矢理,唾を飛ばすのです。話している最中絶えず意識して相手に唾がかかるかも知れないと心配になるほどのパワーを出していただきたいのです。

いっぱい練習してみて下さい。何度もトライしてみましょう。決して[G]の後に[U]を挟み込まないよう,くれぐれも気をつけて下さい。dog や big 単語の最後に出てきたときが腕の見せ所ですよ。

今年の家族旅行はシンガポールを選びました。淡路島ほどの小さな島国に4つの文化。子供たちにこれを見せておきたいと思います。でも,一つ気にっていることがあります。道路に唾をはくと罰金を取られるということです。ちょっとパワーを落としてコミュニケーションを楽しんできます。

著者 拝

 

第22話 Singapre 98 9/1 更新
家族旅行
今回は先日出かけたシンガポールでの体験談を掲載します。これまでの流れと少々趣を異にします。どうぞご了承いただきますようお願いいたします。

まず,なぜ家族4人揃っての海外旅行先にシンガポールを選んだかというと,前回最後に書きましたように,淡路島ほどの広さの国でさまざまに異なる文化を体験できる,という点にあります。半日で4つの国を訪ねることができるのです。こんな安上がりの海外旅行は他には見当たりません。これは狙いどおり!子どもたちはMRT(地下鉄と山の手線が合体したような交通機関)に乗るたび,中国系,インド系,マレー系,ヨーロッパ系の人々に出会うことが出来ました。親子の所作,恋人同士の語らい,学生たちの…と世界中に共通する“何か”とシンガポールならではの全く異質な“何か”に出会えます。娘などはどういうわけか中国南部から来たという旅行者から「〜ちゃんじゃないの?」などと2度も声をかけられました。その都度私が日本から来たのですよ,と説明するのですが尚も食い下がられるのです。片言英語で詳しい事情は聞き取れませんでしたが,なんとも不思議な体験でした。

リトルインディアやマレー人街,そしてチャイナタウン。歩いてみると面白い。それぞれにまったく別世界の趣,風情です。歴史と文化の違いを肌で感じることができました。インド人街には有名なオカマ通りがあって売春男が夕暮れとともに出没します。あそこは止めときなさい,とタクシーの運転手さん。おじいさんはインドネシアの出身とか。ほらほらあのカメラ。あれで信号無視の車を撮影して3−4日したら通知が届いて罰金なんですよ。政府は何かというとお金,お金,とぼやいていました。

ところで,どのガイドブックにも出ているオーチャード通りという日本で言えば銀座のような大繁華街があります。この通りほど面白くないところはありませんでした。わざわざこんな通りを見にシンガポールまで来たんじゃないよ,と腹立たしさまで感じました。つまり日本の大都市となんにも変わらないのです。これはダメだ,と裏通りに入りちょこっと地階を覗きました。と,髭もじゃインド人の洋服屋さんが背後から「チョットマッテ!」と鋭く呼び止めるのです。そのときは息子を伴っていました。私から遅れること3〜4歩。その声で金縛りにあってしまい一歩も動けません。私は振り返り「こっちへおいで」と手招きしました。それでも動けません。しかたないので引き返し手を取ってやっと歩き始めることができました。「ああ,お父さんがいてくれて良かった」ほっとした表情でした。

我々は日本語で呼び止められます。私はシンガポール滞在中「なぜ日本人だと判るの??」と尋ねつづけました。笑ってしまったのは,持参していた医療器具が壊れホテル専属のエンジニアを呼んだときのこと,曰く(私の顔をまじまじみながら)「あなたのようなfunny face のシンガポーリアンはいないのだよ。エヘヘ。だから直ぐ日本人だとわかる。」と佃煮のコマーシャルをしているコメディアンにうりふたつのfunny face。まったくのチャイニーズイングリシュでMotor is jimmed. と何度も説明しスペルまで教えてくれるのですがとうとう意味が分からないまま今日に至っています。Jim はあくたれ小僧でそこから派生したシンガポール特有の英語なのでしょうか?どなたかご教授をお願いします。

実は,一人旅のおりは,スコットランドでもハワイでも,香港でも,現地の人間に間違われ,わざわざタクシーを止めて道を尋ねられたり,大勢が並んでいる中で電車の行き先を聞かれたりしたものです。今回は家族と一緒にいたからでしょうか?必ず日本人だと言われるのです。インドネシア料理のレストランに入ったとき,ウエイターは「私が長らくシンガポールに在住している日本人で妻は中国人,子どもたちは妻似で中国系」と素性を推理しました。丸顔と細面の違いでしょうか?いまだによく理由は分かりません。私には中国系のシンガポーリアンは,話し振りを聞くまでそのほとんどが日本人に見えたのでした。

少し話しが長くなりました。この辺で終わります。もう少しお伝えしたいこともあるのですが,この連載には適した内容とは言えません。次回は二重母音についてお話しします。

著者 拝

 

第23話 二重母音 00 12/24 更新
比の応用

久しぶりの更新です。お付き合いをお願いします。

まず,用語の定義をします。この稿で言う二重母音とは how にある[au]や boy の[oi]を指し,長母音とは peach の[i:]や school の[u:]を指します。当然でしょ,わかってるよ,とおっしゃるかもしれませんが,米国人と発音についてディスカッションした折,long vowel(日本で言う長母音)=[au]や[oi]で double vowel(日本で言う二重母音)=[i:]や[u:]ですよ,と説明を受けたことがあります。私の発音に関する学術的な知識は薄っぺらいもので,学生時代にたった1冊だけ読んだ,日本の学者が著した「英語音声学」という書物(20年以上前,後輩に厚意で貸してやったのに未だに戻ってこない!)が最初で最後のもの。そこから得た情報では上述の用語の定義のような内容でした。高校生のときにもそう教わったように記憶しています。その後確認を怠っています,が全く逆の訴えだったのでちょっと意外でした。

では,本論。base を例にとってみましょう。我々はこれを日常「べース」と言っています。野球のベースや米国空軍のベース。ところがこの“ー”の部分を英語では[ei]と発音します。(オーストラリアやニュージーランドの方々は概ね[ai]と発音されるようです。)さて,この音をどのように処理すればよいかが今回のテーマです。

[e]と[i]は日本語の[エイ]に置き換えられるのでしょうか?それとも2種類の音が渾然一体となった不思議な音なのでしょうか?はたまた特殊な比率になっているのでしょうか?

base をカタカナ通りに“ベイス”と発音するとイが強くなりすぎ何だか聞いたことのない単語のように響きます。早口に喋っているときはかえってベースといった方が原音に近いかも知れません。例えば,mail 。日本語読みとしての“メール”が一般的に普及している中で,ときどき“メイル”というカタカナ書きを目にします。この表記に対し,私は個人的に“メール”の方がまだ自然かなと,多少の違和感を感じています。

ところが伸ばしただけでOK!では「発音物語」連載の意味がありません。もう少し突っ込んで考えてみましょう。

正しい答えは「シームレス調・新種音」かも知れませんが,それでは外国語として学習する我々にとって習得は至難の業。つまり「英語の母音は20以上あるのです!これをしっかり身に付けないと上手にはなれましぇーん!」などど強迫観念でわが身を脅し続けなければなりません。で,音をとりあえず二つに分解して算数の「比」と音楽の「スラー」の感覚で立ち向かうと楽にマスターできるのではないかというのが,私の結論です。

具体的には長さの比が8:2,音の大きさの比は7:3。

5:5対応は簡単です。母音のみ,あるいは子音+母音が最小の音ユニットである日本語を使う我々には使い慣れた発声です。ところが「メイル」「ベイス」となってしまい不要な音節1個増えたようで,かえって不自然です。

戦う相手は8:2。拍子抜けしそうですが,このコツは,すこぶる簡単!要は最初の音を強烈に発するのです。[e][a][o]などなど。二重母音の頭の部分をしっかり出して後は付録です。練習方法としては5:5と10:0を交互に発音し,徐々に8:2を目指していきます。両端からコンフォタブルセンターを目指します。20〜30回繰り返すと見違えるような音になります。ここで一言。あと一点大切な要素は,例えば base なら[b]の音もキチンと強めに破裂させておくということです。

大人になって英語を上手に使うには子どもの頃の算数と音楽の勉強に因果関係があったりして!?

それでは,21世紀がみなさまにとって輝く世紀でありますよう。どうぞ,良いお年をお迎え下さい。

著者 拝

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