第11話 Wの音(2) 98 3/1 更新
飴玉口に含んでしっかり練習
早速イメージトレーニングを始めましょう。まず、日本語でごくごく自然に「ウー」と伸ばしてみて下さい。これを三回繰り返して下さい。

口の中で「ウー」と響いている、つまり口の中が共鳴箱のようになっているのが感じられますか。「ウー」のバイブレーション、気持ちよい振動がありますね。

では、それを感じながら、もう一度やってみましょう。「ウー」「ウー」「ウー」

さて、ステップアップします。次の課題は共鳴箱の中に「ウ」の固まりを感じることです。「ウー」と言いながら舌の上に大きな丸いアメ玉のような物をイメージします。やってみましょう。「ウー」「ウー」「ウー」

これができると第一関門突破です。そのアメ玉を徐々に口先の方へ移動させます。大きなアメ玉を少しずつ小さくしていきます。舌の先まで滑り出しましたか。そこまで来るとその先は唇になりますね。まだまだ押し出していきます。もっとです。唇を力いっぱい尖がらせてください。

はい、もっともっと尖がらせて、もっともっとアメ玉を小さくしていき唇の先へ、先へと移動させていきます。アメ玉はとうとうボールベアリングのように小さな小さな鉄の固まりなりましたか。この小さな鉄の固まりが[W]の音です。この玉をとんがった唇で出来たトンネルの中で振動させるのです。

なんとも変な説明にお付き合いいただきありがとうございます。なぜこんな風なイメージトレーニングをするかと言うと、やはり「現場たたき上げ」つまり実際の指導の中で考えついた方法なのです。[TH]や[F]あるいは[R]などの音は日本語とはまったく異質なだけに却って短時間で発音方法を習得することが可能です。しかし日本語に類似した音群はなかなか習得が大変です。苦しんで苦しんでようやく辿り着いたのがこのイメージ練習法でした。

しかし、これだけでは自己判断が出来ません。今度は小道具として手のひらを使います。ここからはイメージではなく実際の感覚を頼りにします。

では、手をひろげて唇に近づけます。口笛を吹くようにして軽く息を吹きかけます。くすぐったいですね。少し強めに息を吹きかけてみて下さい。最後に力いっぱい。ここでは息がどのくらいの強さで当たっているかしっかり覚えておいて下さい。

では、日本語のまんまで「ウー」と言ってみて下さい。勿論手のひらを口に近づけて。

どうですか。ちゃんと息の強さを感じることが出来ますか。出来ない方はもう一度初めからやり直しましょう。手のひらに、口笛を吹くようにして軽く息を吹きかけます。その強さを覚えておいて今度は声にします。「ウー」これは無声音と有声音の違い、息のパワーがどれほど“音を作り出す”為に消費されてしまうか、の実験でもあります。

けっこう大変ですね。ここは峠です。どうか繰り返しチャレンジ下さい。息のパワーが身につくと[W]の音はもうすぐそこに待っています。友達になったも同然です。

I want you. 愛する女性にささやくその日はステキな[W]が身についてからにしたいものですね。

またお会いしましょう。

著者 拝

 

第12話 息のパワー 98 3/15 更新
声はおなかから出すの?
前回[W]の音を扱いましたが、その最後で息のパワーについて触れました。ヴォイス・プロダクションという専門用語もあるほどで、英語をじょうずに話すには、よく「お腹から音を出せ」という指導を受けます。

確かに「英語の音」はお腹から口まで太っといパイプが貫いていて何の障害物も無い共鳴箱の中で響いているように聞こえます。一方、日本語は喉と口先だけでも“不足の無い”音が出せます。私は両者の発声法は狩猟の民族が大草原で効率の良い大声を出さないとコミニュケートできなかったであろう必然と農耕の民である我が日本人の祖先が小声でも田植えから脱穀まで賄えた文化が醸し出したもの、と推測します。同じアジアでも中国の人々の発声法は我々とはずいぶん違います。広大な土地に生きた彼らの「音」が英語の発声に似ているのは背景の一致によるものではないかと考えています。

ところで、声はもちろん声帯からでるのに「お腹から出せ」と言われても、実際そんなことは不可能です。この表現は“喉を締め付けずにおおらかに、お腹に少し気合を込めて発声しましょう”程度に解釈すれば少しは気が楽になります。「それなら自分にもできるかな」と勇気が湧いてきます。ただ、ここで注意点が一つあります。それは発声法の根源的な相違点を勘違いされて、なんでもかんでも[R]の音を混ぜてしまう方が結構おられるという事実です。ご本人は一人御満悦なのですが聞いている方は「変な英語だな」ということになりかねません。こういう悪い癖はなんとか改めたいものです。

さて、発声法に関連して、余談ではありますが、私は一度NHKのラジオインタビューを受けたことがあります。「阪神大震災」のあと小さな地震図書館を開いた友人に対してのコメントを求められました。しかも電話でのインタビューでした。アナウンサーの女性は雑談の後「それでは、これから私はスタジオに入りますので、よろしくお願いします」しばらくの沈黙があり突然プロの発声でトークが始まりました。いろいろ質問されるのですが、私はどぎまぎしてしまい信じられないくらいの早口に。そして結局NG。取直しては頂きましたが後日ラジオから流れる自分の声は聞くに耐えないシロモノでした。

実はこのとき、話す事自体に緊張したのではないのです。私も目指している「プロの発声」に実際に巡り合い、こんなにすばらしいものかと脱帽せざるを得ない状況、しかもどんどんどんどん深みにはまり込む自分自身をコントロールできなくなってしまったのです。大学受験に上京し、たまたま隣に座った都会の受験生から「スミマセン、昨日の法学部の試験も受けましたか」と純生東京のアクセントで話されたときのような驚き感じました。私はそのおり播州弁で「えー、あのー、うけとらへんのですけど。きのーは」と応えました。そしたら「あれ、チホウの方ですか」と。ぼくは痴呆じゃないけどな??といぶかしく思いました。が、後で知りました。東京に住んでいる連中は三代続いてなくても関東以外のことを「地方」と呼ぶのです。

なにはともあれプラス発でレッツゴー。

アナウンサー養成学校にでも通い正しい発声法とその練習方法を学ぶほうが速くて確かもしれませんが、ここでは日常ちょっとした空き時間でできる練習法をご紹介します。良い音を出すにはやはりそれなりの訓練が必要です。

まず、縦2cm×横5cmの長方形の紙とB5版、ハードカバーの書物を1冊用意します。紙はノートの切れ端でOKです。それを2〜3度折り、60度くらいの角度を付けてカエルが跳びはねる直前の形にします。それを本の端に置きます。(写真があればいいのですが)そしてそのまま、つまりカエルが座った形の紙切れが本の端から訓練者の方を向くように配置され、お相撲さんが優勝杯からお酒を飲むようなスタイルで、書物を顎の下にあてがいます。

そーっと息を吹きかけてみて下さい。カエル紙はいとも簡単に飛んでいきますね。

では、紙を拾ってもう一度同じように準備して下さい。今度は破裂音と呼ばれる[P]の音で試してみましょう。これも結構うまく行きますね。

それでは上級テストです。「ウー」と声を出しながら紙を飛ばしてみて下さい。喉を締めつけた「日本語の発声」のままでは紙を飛ばすことはできません。どんなに大声を上げようが紙は微動だにしません。エネルギーがみんな音として消費されているのです。

万一、簡単に吹き飛ばせた方はもしかすると「ウー」の音が出る前の息で、あるいは「ウー」の音が出てしまった後の息で吹き飛ばしている可能性もありますので手のひらで息をシャットアウトして「ウー」と声になっているときに「手のひら関門」を開きましょう。

どうですか?何度もチャレンジしてパワフルな発声法を身につけて下さい。上達すると恐ろしいほど遠くまで息が届きます。

ここで標語をひとつ。“ニンニクたっぷり食事の後は、牛乳がぶ飲み、控えよ[P]音”

著者 拝

 

第13話 Nの音 98 4/1 更新
「ん」で代用してはいけません
この音も簡単そうですが、実は結構落とし穴にることがあります。結論から言いますと、我々はよく「ん」で代用してしまうのです。「ん」はニアリーイコール[NG]音。[N]ではありません。ただ[N]音の要素は元々日本語の中にもあります。つまりひとつの単語の中に na, ni, nu, ne, no と後ろに母音が続くときは、弱めではありますがうまい具合に英語らしい[N]の音が出ます。ところが、単語と単語にまたがる場合,そうはいかないようです。

例として次の2つの文を読んでみて下さい。

1)I have no pens.

2)The pen on the desk is Tomoko’s.

ここではno の組み合わせが2種類出てきます。1では一つの単語として、2では前後の単語にまたがって。両者の発声法に違いはありませんか?

実験してみましょう。非常にゆっくり丁寧に読んでみて下さい。そのときご自身の舌の先がどのような動きになっているか意識して下さい。具体的には1を読むとき、 no での舌の動きや舌のどの部分が口中のどこに当たっているか、と2の pen on でつながる n-o の動きをしっかり比較して頂きたいのです。

まったく同じだよ、といわれる方は多分正しい発音が身に付いている方です。異なる「あなた」は正しい発音が身に付いていないと言わざるを得ません。

では、改めて[N]の音は基本的にどのようにして出すのかをおさらいしておきます。「ノノノ」と発音してみて下さい。舌の先がほんの少し上顎に当たりますね。個人差があるので強さと場所は一概に「これ!」と申し上げにくいのですが、舌の先で上顎を歯の付け根から奥の方へ滑らせてみて下さい。付け根に続く部分が盛り上がっていますね。[N]は通常舌の先端が上の歯の付け根に触れ、盛り上がりにベッタリ押し付けられた状態で鼻に抜けるようにして発せられます。

我々は普段日本語を話しています。この言語で用いられる音は、繰り返しになりますが、母音オリエンティドといって差し支えないほどほぼ100%子音+母音で成り立っています。我々は生まれて今日まで、言葉を区切って、区切って話してきたのです。一つの言葉、というより音自体がそれぞれに完結していて、続いて発する音と絡み合うということはありえないのです。いくら早口の人でも音をつなぐことはできません。日本語としては母音+子音では音にならないからです。しゃくりしたときくらいでしょうか、そんな発声をしているのは。「Iick Iick Iick Iick.。。。ウームなかなか止まらないなア。Iick Iick」

ではここで2の英文 The pen on the desk is Tomoko’s. を分析してみましょう。我々には7つの異なった単語から成り立っている文、と映ります。そしてそれを7つの異なったかたまりとして発音します。“区切る”ことに慣れきっている日本民族としては当然のことです。が、しかし英語を母語として話す人々には“7つの異なった単語はいつも=7つの異なった音”というわけではありません。(音節について考えなければなりませんが、この場では触れません)pen on の n-o そして desk is の k-i は異なった単語の一部とは言いながらまるで一つの音として発せられます。

このとき正しい[N]が出せてなくて「ん」で代用していると音は絡み合うことはないのです。また[K]にしても「子音のみの発声」に近づいてない場合は kui のような音になってしまいます。母音を含めば含むだけ音節が増えます。いわゆる流暢な英語を話す為にはこの辺をクリアしなければなりません。

著者 拝

 

第14話 Sの音 98 4/15 更新
簡単だけどこじれると厄介
この音は、当たり前のことかも知れませんが、出せる人はいとも簡単に出せますが、そうでない人はなかなか出せません。それには理由が二つあります。一つ目は非常に厄介です。[S]の代わりに[TH]の音を出してしまうのです。この癖は日本人だけに限らず欧米人のなかにも結構見受けられます。どうやらお母さんかお父さんにこの種の癖があるとその音を繰り返し聞いて成長する過程で子どもにも「遺伝」するのかもしれません。以前、どうしても改善されない児童のお母さんはもっと強烈な[TH]を出されていました。残念ながら矯正するのは非常に困難な模様です。よほど根気強く訓練を繰り返す必要があると思います。

この難問についてオーストラリア、アメリカ、イギリス出身の一言居士達といろいろ議論しましたが、それぞれの母国でもなかなか克服できていないということでした。よく考えてみるとさまざまな音の中でもっとも似通った「異なる音」なのかもしれません。[TH]は舌の位置や接触場所から、発声法が[S]と[T]との間に位置し、どうしてもこれら2つの音と混同しやすくなるのでしょう。

ただ、この癖、つまり[S]の代わりに[TH](あるいは[TH]を使うべきときに[T]音の代用)、自体が大問題で致命的かというとそうではありません。音すべてに通じることだと思いますが、不十分なら不十分なりにそれでも安定的に出せれば意志の疎通は100%図れます。ブロンドなどはかえって色っぽいかもしれません。(目指せ Beyond Blonde)実は、親しい友人にかなり強くこの癖のある教師がいましたが、立派に任務をつとめ今は本国でコンピュータ関係の仕事に従事しています。他の音を磨き、話す内容を磨き、人間性を磨けばへっちゃら、と少しは目をつむってもいいかもしれませんネ。

さて、第二は[S]を[SH]というか日本語の「シ」で代用してしまうという問題です。これは適切な訓練次第で必ず解決できます。

まず、「シー」と発音してしまう人には[S]は「シ」との思い込みがあるようです。出だしの[S]は瞬間的に出せるのにそれを伸ばす(長音)訓練に入ったとたん「シ」になってしまいます。つまりこうです、[SSHiiiii]。結果 Nice to see you. がなかなか正しく発せられません。“Nice to sshee you. 地獄”から抜け出せないのです。

訓練法としては[S]と「シ」は別個の音である、と洗脳し直す必要があります。これは年齢が上がれば上がるほど困難ですが粘り強く取り組みましょう。意識が変ると、不思議なことにすぐ改善される方が結構出ます。が、それでもだめな場合は次のようにすると効果てきめんです。

ボックスでもシックスでもどちらでもOKです。ゆっくり発音します。最後の音は[S]が出ています。[TH]癖がついていない人なら全員が[S]になります。その音をそのまま伸ばします。[SSSSSSS]となります。そこでいったん口を閉じます。その後[iiiiii]と発音します。これを繰り返すのですが、大切なポイントはこの2音間の切り替え時間を徐々に短くしていくことなのです。そしてゼロにします。

いかがですか?[Siiiiii]の出来上がりです。

Nice to see you. が見事に言えますね。それではみなさま、See you soon again on the net! Bye for now.

筆者 拝.

 

第15話 Mの音 98 5/1 更新
唇をしっかり、だけどソフトにぴったりくっつけ
一度 I’m from Miami. これを発音してみて下さい。

この文章ではふたつのテクニックが必要です。一つ目は[M]と[F]との音のつながりもう一つは[M]と[M]とのつなぎ方です。

まず基本を押さえておきましょう。今回あつかう[M]の音は唇をしっかり、だけどソフトにぴったりくっつけたまま「ウー」と唇に近い部分で唸ると出せます。こうすると我々の耳には「ムー」に似た音として聞こえてきます。ただ日本語の「ムー」は[m]に[u]が付随したものですのでトレイニーは[M]の音を出しているつもりなのですがそのほとんどが[u]に置き換わってしまう、ということが多々あります。これは閉じておくべき唇をすぐ開いてしまうことが原因です。長年慣れ親しんだ日本語の発音法がガチガチに私たちを縛り上げています。なかなかその反射から逃れ出すことは難しいのです。だからガンバリましょう。

本論に入る前に、おさらいを。日本語の音は99%「子音+母音」で成り立っていて、どの言葉も母音で終わります。例えば「おはよう」はo-ha-yo-u 「だいぶ温かくなってきましたね」は da-i-bu-ata-ta-ka-ku-na-tte-ki-ma-shi-ta-ne 、というように母音(a-e-i-o-u)が亡霊のように付きまといます。一方英語は子音で終わる言葉の方が圧倒的に多いわけです。Come on, Mike. You did it again! You must be more careful. の [m]や[n]に[k][t][r]や[l]。試しにこの後にそれぞれ母音をまとわり付かせると見事!ジャパニーズイングリッシュの完成です。どうなるかというと、Comu ong Miku. You dido itto ageng! You musto bee moa keahulu. 笑うに笑えない事態が現状です。

話を戻し[M]と[F]との音のつながりを考えてみましょう。I’m fr---の[M]と[F]との間に母音はありません。(この場合の母音は[u]と言うことになります。[M]は通常「ム」m-uで代用するからです。)この[u]を完全にではなくともナチュラルに聞こえる範囲内にまで何とかして取り去りたいわけです。どうすればいいか?答えは簡単です。[M]の音を出した後唇を開かないで即[F]の音に移ればいいのです。

この訓練法は[M]→[F]の順にすると厄介です。逆噴射テクでクリアーしましょう。まず[F]の音(第5話と第6話参照)を何度か出します。もちろん唇は閉じてはいませんね。では[F]のロングトーンです。その途中でソオーっと唇を閉じてみましょう。それを何度か繰り返します。今度はロングトーンの間に唇を閉じたり開いたりします。はじめのうちは[P]が出てしまうことがありますが、それで結構です。これを何度も何度も練習していくと唇も歯もスムーズに動き出します。決して大きな動きではないのです。0.5mの隙間ができれば音は移行します。そして次の段階では唇を閉じたときに「ウー」と唸ります。すると[M]の音が出ます。

いかがですか?そうして下ごしらえがすむと[M]→[F]に戻します。失敗したら振り出しに戻る。そしてようやく I’m from…と文に進むのです。じっくり熟成させましょう。芳醇な香りをかもすため。

では続いて[M]と[M]はどう料理すればいいのか考えてみましょう。この場合も間に母音[u]はありません。ということは、唇を開けてはいけないということです。ハイ、閉じたままにしておきます。つまりふたつの[M]ではなくここには少し長めの[M]がある、と考えるのです。このテクが身に付くと便利です。[M]と[M]がつながることがよくあるからです。マキちゃん、マミちゃん、みゆきチャン、メルモちゃん、ミエコちゃん、どの子も I’m M---. となります。自己紹介にはつきものです。多くのひとがカッコ良くお話できます。もっとも、My name is … を使うと長めの[Z]が使えても善兵衛(Zembei)さんくらいが喜ばれるだけですが。

では仕上げましょう。I’m from Miami. それではまたお会いしましょう。

著者 拝

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